北の炭都として栄え、閉山後に急速に人口を減らした芦別市と、戦後石炭産業の軌跡をまとめた『芦別 炭鉱〈ヤマ〉とマチの社会史』(以下、芦別本)が昨年末に刊行された。学術本には珍しく北海道内外から問い合わせが入る。芦別で炭鉱作業員として生活していた家族らから懐かしむ声が聞かれるという。
芦別に移住し、芦別で働き、暮らし、そして芦別を去った膨大な人たちの足跡――。
芦別本の帯は、そう記される。例えば戦後の労働者不足を樺太引き揚げ者が支えたこと。炭坑内部での仕事や多発した事故の記録や写真。賃金や労組活動。住居や教育、女性の活動……。芦別本は戦後の大量移住から人口流出の間に、どんな人が住んでいて、どんな生活をしていたのかなど、多角的に分析している。
主な著者は、社会学者の嶋崎尚子と西城戸誠・早稲田大文学学術院の両教授と、芦別の博物館「星の降る里百年記念館」の長谷山隆博前館長の3人。国内外の炭鉱を調査する「産炭地研究会」の研究者6人も加わった。
主な研究材料は同館に保存される学校や組織、団体が発行した大量の「○○周年記念誌」だ。嶋崎教授は2021年から、芦別など空知地区の産炭地でゼミ活動を実施。元炭鉱関係者の聞き取りや炭鉱遺構の調査などをしてきたが、同館の収蔵品を「研究者からすると宝の山だった」と表現する。
「宝の山」は1993年に開館した同館で、開館準備から展示設計の全てに携わった長谷山前館長が集めたものだ。住民らが芦別を去る際、捨てずに寄贈したものが多く、中には炭鉱に提出した履歴書や日誌といったプライベートな資料も残されていたという。嶋崎教授は「芦別本は芦別市教委に31年間勤めた長谷山館長の学芸員としての集大成と言っても過言ではない」と評する。
構想から8年。コロナ禍では…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル